思春期の子どもが家と外で態度が違うのはなぜ?心理学・脳科学から探る背景と親ができる具体的な声かけ・対応
導入:家と外での態度の違いに悩む親御さんへ
思春期のお子様との関わりの中で、家では無口だったり、逆に反抗的だったりするのに、学校の先生やお友達、あるいはお店の店員さんなど、外では全く違う顔を見せることに戸惑いや悩みを抱える親御さんは少なくありません。特に、外で横柄な態度をとったり、公共の場で騒いだりする様子を見かけた際には、どう対応すれば良いのか途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
なぜ、思春期の子どもは家と外で態度が異なるのでしょうか。そして、そのような状況に対し、親はどのように接すれば良いのでしょうか。この問題は、思春期の子どもの心理的発達や脳機能の変化と深く関わっています。本記事では、その背景にあるメカニズムを心理学と脳科学の視点から解説し、親ができる具体的な声かけや対応策について考えていきます。
思春期の子どもが家と外で態度が違う背景
思春期の子どもが家と外で態度を変える行動は、彼らの発達段階における自然な現象の一つとも言えます。その背景には、主に以下の要因が考えられます。
- 脳の発達における特性: 思春期の脳、特に前頭前野は発達途上にあります。前頭前野は、感情や衝動のコントロール、論理的な思考、社会性の獲得などを司る重要な部位です。この部分が未熟なため、子どもは状況に応じた適切な感情や行動の抑制が難しくなることがあります。家という安心できる場所では感情をそのまま出しやすく、一方で外では周囲の目を意識して緊張したり、不適切な行動を衝動的にとってしまうこともあります。また、扁桃体という感情に関わる部位の活動が活発になるため、感情の起伏が激しくなり、それが態度に影響を与えることもあります。
- アイデンティティの模索と社会性の発達: 思春期は、自分自身が何者であるか(アイデンティティ)を確立しようと模索する時期です。様々な役割(家族の中の子、学校の友人、社会の一員)を演じ分け、それぞれの場所での「自分」を探っています。家ではリラックスして素の自分を出したり、あるいは反抗することで親からの自立を試みたりします。一方、外では友人や周囲からの評価を強く意識し、集団に馴染もうとしたり、あるいは自分を大きく見せようとして横柄な態度をとったりすることがあります。これは、他者との関係性の中で自己を認識し、社会性を学んでいく過程の一部と言えます。
- テリトリー意識と安心基地: 思春期の子どもにとって、家は「安心できる場所(安心基地)」としての役割が大きくなります。外で感じたストレスや緊張を、家でリラックスしたり、感情をそのまま表現したりすることで発散しようとします。家と外で態度が違うのは、それぞれの場所が持つ意味合いが異なるためであり、家が安全な場所である証とも捉えられます。しかし、それが過度な甘えや横柄さとして現れる場合、親としては対応が必要になります。
- ストレスやフラストレーション: 学校や友人関係、勉強など、思春期は様々なストレスやフラストレーションを感じやすい時期です。外では我慢している感情や不満が、家という安全な場所で爆発したり、あるいは外で適切に感情を処理できず、不適切な態度として表出してしまうこともあります。
これらの要因が複雑に絡み合い、思春期の子どもは家と外で異なる態度を見せるのです。
親ができる具体的な声かけと対応策
思春期の子どもが家と外で態度が違う場合、特に外での態度に問題が見られる際には、親として適切に対応することが重要です。以下に具体的な声かけや対応策を提案します。
1. 冷静に、具体的な行動を指摘する
感情的に怒鳴ったり、人格を否定するような言葉を使ったりすることは避けてください。「いつもあなたはそうね」「本当に恥ずかしい子」といった抽象的な非難は、子どもを委縮させるか、反発心を煽るだけです。
代わりに、「〇〇で店員さんにタメ口を使っていたね」「電車の中で大きな声で話していたね」のように、具体的にどのような行動が問題だったのかを冷静に伝えましょう。そして、「タメ口は失礼にあたるんだよ」「公共の場では他の人の迷惑になることがあるよ」と、なぜその行動が適切ではないのか、その理由を論理的に説明することが重要です。この時、淡々とした口調で事実を伝えることを心がけてください。
2. 子どもの言い分を聞く姿勢を持つ
子どもがなぜそのような態度をとったのか、背景にある理由や気持ちを聞いてみてください。「どうしてあんな態度をとったの?」「何か嫌なことでもあった?」など、問い詰めるのではなく、子どもの話を聞く姿勢を示すことが大切です。
もちろん、子どもがすぐに理由を話さないこともあります。その場合でも、「何か理由があるのかもしれないね」と理解を示す姿勢を見せることで、子どもは信頼されていると感じ、後から話してくれる可能性が高まります。
3. 社会規範や他者への配慮について教える
思春期は社会性を育む重要な時期です。家庭内での会話を通して、社会における基本的なルールやマナー、他者への敬意を持つことの重要性について折に触れて話しましょう。
例えば、親自身が公共の場で礼儀正しい態度をとることを見せる、ニュースや本を参考に社会的な問題について話し合うなど、日常生活の中で自然に社会性を学ぶ機会を提供します。「お店の人は、みんなのために働いてくれているんだよ」「困っている人がいたら助け合うのが大切だね」といった具体的な声かけも有効です。
4. 良い態度をとれた時には具体的に褒める
家と外での態度の違いに目が向きがちですが、外で適切な態度をとれた時、あるいは家で家族に優しく接した時には、その行動を具体的に褒めるようにしましょう。「〇〇(場所)で、店員さんにきちんと「ありがとう」って言えて偉かったね」「家で弟(妹)に優しく教えてあげていたね、助かったよ」など、どのような行動が良かったのかを明確に伝えることで、子どもは何が求められているのかを理解しやすくなります。
5. ロールプレイングで練習する
特定の状況(例えば、お店での注文の仕方、公共交通機関での座席の譲り方など)で不適切な態度が見られる場合は、家庭でその状況を想定したロールプレイングをしてみるのも一つの方法です。親がお店の人役、子どもがお客さん役などになり、適切な言葉遣いや態度を練習します。これは遊び感覚で取り入れ、堅苦しくならないように注意が必要です。
6. 親自身の態度を見直す
子どもは親の言動をよく見ています。親自身が公共の場で不適切な態度をとっていないか、家族に対して横柄な態度をとっていないか、改めて自分の言動を振り返ってみましょう。親が模範を示すことは、子どもの社会性を育む上で非常に重要です。
7. 長期的な視点を持つ
思春期の子どもの家と外での態度の違いは、成長過程において多くの人が経験するものです。一時的なものである可能性も十分にあります。すぐに完璧を求めず、長い目で見守る姿勢も必要です。根気強く、しかし感情的にならずに、繰り返し適切な声かけと対応を続けることが大切です。
まとめ:成長の過程を理解し、根気強く向き合う
思春期の子どもが家と外で態度を変えるのは、脳の発達、アイデンティティの模索、社会性の発達など、複雑な要因が絡み合った成長過程の一部です。外での態度、特に公共の場でのマナーや他者への配慮に問題が見られる場合、親として適切に介入し、社会性を育むサポートをすることが求められます。
感情的にならず、具体的な行動を指摘し、その理由を論理的に説明すること。子どもの言い分を聞く姿勢を持ち、社会規範や他者への配慮について日常生活の中で教えること。そして、良い態度をとれた時には具体的に褒めること。これらの具体的な対応を粘り強く続けることが、子どもの健全な社会性の発達につながります。これは一朝一夕に解決する問題ではないかもしれませんが、親が子どもの成長を理解し、根気強く向き合う姿勢を示すことで、子どもは少しずつ社会の中でどのように振る舞うべきかを学んでいくでしょう。