思春期の子どもが本当に求めている「認め方」:脳の発達と心理を知り、自立を促す親の具体的な声かけ
思春期を迎えたお子様とのコミュニケーションにおいて、「褒めているつもりなのに響かない」「むしろ反発される」といった経験をされている方もいらっしゃるかもしれません。幼少期には効果的だった「すごいね」「えらいね」といった声かけが、思春期には通用しなくなるように感じられるのはなぜでしょうか。
この背景には、思春期特有の脳の発達と心理的な変化が深く関わっています。子どもたちが自立の道を歩み始めるこの時期に、親がどのような態度で接し、どのように「認める」ことが、彼らの健全な成長と自己肯定感の醸成につながるのかを、専門的な知見から掘り下げて考えていきたいと思います。
思春期の脳と心理の変化:「褒める」が難しくなる理由
思春期は、脳が急速に変化する時期です。特に、感情や衝動を司る辺縁系(扁桃体など)が先行して発達する一方で、理性や判断力、長期的な計画に関わる前頭前野はまだ発達途上です。この発達のアンバランスさが、感情の起伏が激しくなったり、リスクを恐れずに行動したりする要因の一つとなります。
また、思春期は自己意識が非常に高まる時期です。自分が他者からどう見られているかを強く意識し、自尊心や自己肯定感の土台を築こうとします。しかし、その土台はまだ不安定であり、批判に対して非常に敏感になる傾向があります。
このような脳と心理の変化が、「褒める」という行為に影響を与えます。幼少期は親からのシンプルな称賛が自信につながりやすかったのですが、思春期になると、親からの評価を「子ども扱いされている」「上から目線だ」と感じたり、素直に受け止められずに反発したりすることがあります。彼らは、表面的な結果だけでなく、自分自身の内面や努力、そして一人の人間としての存在そのものを「認めてほしい」という、より複雑な承認欲求を持つようになるのです。
結果ではなく「存在」と「プロセス」を認める
思春期の子どもが本当に求めているのは、単にテストの点数が良かったことや、部屋を片付けたことだけを褒められることではありません。彼らは、親が自分のことを理解し、一人の人間として尊重し、見守ってくれているという「安心感」と、自分の努力や成長そのものを「認めてもらえている」という実感が必要です。
具体的なアドバイスとして、以下のようなアプローチが考えられます。
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結果だけでなく、プロセスや努力、工夫を具体的に言葉にする
- 単に「テストの点数、良かったね」ではなく、「今回のテスト、前より〇〇の勉強を頑張っていたもんね。その努力が結果につながったんだね」「この発表資料、構成を工夫したのがよく分かるよ。〇〇の部分、すごく分かりやすいね」のように、何にどう取り組んだかというプロセスに焦点を当てて伝えます。
- スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授は、結果だけでなく努力やプロセスを褒めることで、子どもの「成長思考」(Growth Mindset)が育まれることを研究で示しています。思春期においては、この視点が特に重要です。
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本人の感情や考えに寄り添い、言葉にならない部分も受け止める
- 成功だけでなく、失敗したり悩んだりしている時こそ、彼らの感情や考えを「認める」機会です。
- 「〇〇で悔しい気持ちになったんだね」「どうしたらいいか、今悩んでいるところなんだね」のように、感情や状況を言葉にして返すことで、「親は自分の気持ちを理解しようとしてくれている」という安心感が生まれます。これは「共感的承認」とも言われます。
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存在そのものを肯定する
- 何かを「したから」褒めるのではなく、「あなたがいてくれて嬉しい」「あなたの〇〇なところ、素敵だと思うよ」のように、存在そのものや、その子の個性、価値観といった内面的な部分を肯定的に伝えます。
- 「生まれてきてくれてありがとう」といった根源的なメッセージは、言葉にせずとも態度で伝えることができます。
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信頼と期待を示す
- 「〇〇ならできると信じているよ」「あなたに任せてみようと思う」のように、子ども自身の力に対する信頼と、将来への肯定的な期待を伝えます。ただし、親の願望を押し付ける形にならないよう注意が必要です。
- これは、自己決定感を尊重することにもつながります。
避けるべき「褒め方」「認め方」
思春期の子どもに対しては、以下のようなアプローチは逆効果になることがあります。
- 過剰で根拠のない称賛: 「世界一すごい」「天才だね」といった、子ども自身も現実的でないと感じるような褒め方は、かえって不信感やプレッシャーにつながることがあります。
- 他の子どもとの比較: 「〇〇さんよりすごいね」「きょうだいの△△はもっとできるのに」といった比較は、劣等感や反発心を生むだけです。
- 条件付きの承認: 「〜したら褒めてあげる」「〜じゃなきゃ認めない」といった、親の期待に応えることと承認を結びつける方法は、子どもの主体性や内発的な動機付けを阻害します。
- 結果のみに焦点を当てる: 点数や順位といった目に見える結果だけを褒め、そこに至るまでの努力や過程に触れないと、子どもは「自分自身ではなく、結果だけが評価されている」と感じる可能性があります。
長期的な関係構築のために
思春期の子どもへの「認め方」は、単なるコミュニケーションテクニックではなく、彼らの自己肯定感や自立心を育み、親子の信頼関係を長期的に維持するための重要な要素です。脳科学的には、承認されることによって脳の報酬系が活性化し、ポジティブな感情や行動が強化されることが示唆されています。しかし、思春期においては、その報酬系がより社会的な承認や、自分自身の価値を内面化することによって活性化する傾向が強まります。
親ができることは、子どもが自分自身の価値を、外部からの評価だけでなく、内面的な基準(努力、成長、誠実さなど)に見出すことができるようサポートすることです。そのためには、親自身が完璧ではない自分を受け入れ、子どものありのままの姿を尊重する姿勢が不可欠となります。
すぐに変化が見られなくても、根気強く、子どものペースに合わせて関わり続けることが大切です。言葉だけでなく、一緒に時間を過ごしたり、困っている時に静かに寄り添ったりするといった態度も、子どもにとっては大切な「認められている」というサインになります。
まとめ
思春期の子どもへの効果的なコミュニケーションにおいて、「褒める」ことは難しさを伴う場合があります。しかし、これは彼らが「褒められたくない」のではなく、「幼い頃とは違う形での承認」を求めているからです。脳と心理の発達を踏まえ、結果だけでなくプロセスや努力、そして存在そのものを具体的に「認める」アプローチが、彼らの自己肯定感を育み、自立を促す鍵となります。親が子どもを一人の人間として尊重し、信頼する姿勢を示すことが、思春期の難しい時期を乗り越え、より深い信頼関係を築く上で非常に重要となります。