親子の心をつなぐヒント

思春期の子どもが感情を言葉にできないのはなぜ?脳の発達と心理を知り、親ができる具体的な関わり方

Tags: 思春期, 感情表現, コミュニケーション, 脳科学, 心理学

思春期のお子様とのコミュニケーションにおいて、「何を考えているのかわからない」「感情を表に出さない」といった悩みを抱える親御様は少なくありません。お子様が感情を言葉で表現することに難しさを感じている場合、どのように関われば良いのでしょうか。

感情を言葉にできない思春期の子どもの背景

思春期の子どもが感情を言葉にすることを難しく感じる背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。特に、この時期の脳の発達と心理的な変化が大きく影響しています。

脳科学の観点からは、思春期は大人の脳へと移行する重要な時期です。感情を司る扁桃体(へんとうたい)は比較的早期に成熟する一方で、思考や判断、自己制御を担う前頭前野(ぜんとうぜんや)の発達は途上です。このアンバランスさにより、感情が強く湧き上がっても、それを論理的に整理したり、適切な言葉を選んで表現したりする前頭前野の機能が追いつかないことがあります。また、他者の感情を読み取る機能や、自分の感情を客観的に理解する機能もまだ発展途上にあるため、自分が今どのような感情なのかを把握すること自体が難しい場合もあります。

心理的な観点からは、思春期は自己意識が高まり、他者からの評価を気にしやすくなる時期です。自分の感情を表現することに抵抗を感じたり、「こんなことを言ったらどう思われるだろうか」という不安から言葉を飲み込んでしまったりすることがあります。また、感情を言葉にするための語彙力や表現方法を知らない、あるいは過去に感情を表現した際に否定的な経験(例えば、「そんなことで怒るな」「大げさだ」と言われたなど)をしたことがトラウマとなり、感情を閉じ込めてしまうことも考えられます。さらに、親に対して反発心や羞恥心を抱いている場合、自分の内面をさらけ出すことに抵抗を感じることも自然なことです。

親ができる具体的な関わり方

思春期の子どもが感情を言葉にできるようになるためには、親御様の理解と、安心できる環境作りが不可欠です。具体的な関わり方をいくつかご紹介します。

1. 子どもの感情に「ラベル付け」する手伝い

子ども自身が自分の感情を特定できないことがあります。親御様が、子どもの様子から感情を推測し、「〇〇と感じているのかな?」「もしかして、〜な気持ち?」のように、感情に「ラベル付け」する候補を優しく提案してみましょう。

ポイントは、推測であることを明確にし、子どもが否定したり訂正したりしやすい形で問いかけることです。「〜だよね!」と断定的な言い方をすると、子どもは「違う」と言いづらくなることがあります。

2. 感情を言葉にしやすい「安心・安全な」雰囲気を作る

子どもが「感情を表現しても大丈夫だ」と思える環境が重要です。子どもが感情を表に出した時に、否定したり、批判したりせず、まずは受け止める姿勢を示しましょう。

NGな声かけ・行動:

3. 具体的な状況や行動に焦点を当てて聞く

感情を直接言葉にするのが難しくても、具体的な状況や出来事について話すことから始めるのは有効です。「今日、学校で何があったの?」のように、漠然とした問いかけではなく、「今日の数学の授業、どうだった?」「昼休み、誰と話したの?」など、より具体的な質問をしてみましょう。具体的な事実を話す中で、それに付随する感情が自然と出てくることがあります。

4. 言葉以外の表現方法も認める

感情表現は、必ずしも言葉だけとは限りません。絵を描く、音楽を聴く・演奏する、体を動かす、日記をつけるなど、言葉以外の方法で感情を表現することも認めてあげましょう。子どもがそのような活動に打ち込んでいる時、無理に話させようとせず、そっと見守ることも大切なサポートです。

5. 親自身が感情を言葉にする姿を見せる

親御様自身が、日常生活の中で自分の感情を健康的な形で言葉にする姿を見せることは、子どもにとって良いモデルとなります。「今日は仕事で大変なことがあって、少し疲れたな」「〇〇がうまくいって、すごく嬉しい!」のように、親が自分の感情を言葉にすることで、子どもは「感情を言葉にしてもいいんだ」「色々な感情があるんだ」と学びます。

応用・発展的な視点

子どもが感情を言葉にすることに極端な難しさを感じていたり、感情のコントロールが著しく困難であったりする場合には、発達特性や精神的な不調が背景にある可能性も考えられます。強い不安、抑うつ、怒りの爆発などが頻繁に見られる場合は、学校のスクールカウンセラーや地域の相談機関、必要に応じて専門医への相談も検討しましょう。早期の相談が、お子様の健やかな成長をサポートすることにつながります。

まとめ

思春期の子どもが感情を言葉にできないのは、その発達段階や心理的な要因が複雑に絡み合っているためです。それは、必ずしも親への反抗や愛情の欠如を意味するものではありません。親御様にできることは、脳科学や心理学に基づいた理解を深め、子どもが安心して自分の感情に向き合い、それを表現できるような環境を忍耐強く作り続けていくことです。具体的な声かけや、言葉以外の表現方法の受容、そして親自身のあり方が、お子様の感情との健康的な付き合い方を育む鍵となります。焦らず、お子様のペースに寄り添いながら関わっていくことが大切です。