思春期の子どもが自分自身にネガティブな言葉を投げかける理由:心理学・脳科学から探る背景と親ができる具体的な声かけ
思春期を迎えたお子様が、時にご自身に対して否定的な言葉を口にするのを聞いて、不安を感じる親御様もいらっしゃるかもしれません。「どうせ自分なんて…」「私には無理だから」といった、いわゆるネガティブなセルフトークは、この時期の子どもたちに少なからず見られる現象です。なぜ思春期の子どもは、自分自身に厳しい言葉を投げかけてしまうことがあるのでしょうか。その背景には、この時期特有の脳の発達や心理状態が深く関わっています。
思春期における自己評価の揺らぎとその背景
思春期は、子どもから大人へと心身が大きく変化する移行期です。この時期には、自己意識が急激に高まり、周囲からの評価や期待を強く意識するようになります。同時に、自分自身の内面や能力についても深く考えるようになりますが、まだ自己肯定感が十分に確立されていないため、些細な失敗や他者との比較によって自己評価が大きく揺らぎやすい状態にあります。
このような自己評価の不安定さには、脳の発達も影響しています。前頭前野、特に腹内側前頭前野と呼ばれる領域は、自己評価や感情のコントロール、未来の予測などに関与しますが、この領域は思春期にかけて発達の途中段階にあります。そのため、感情に振り回されやすく、一度ネガティブな感情や思考にとらわれると、それを客観的に評価したり、切り替えたりすることが難しくなることがあります。
また、脳の扁桃体という感情を司る部位は思春期に過活動になりやすく、不安や恐怖といったネガティブな感情を強く感じやすい傾向があります。このような脳機能の変化が、自分自身に対する否定的な見方や、ネガティブなセルフトークとして表れる一因と考えられます。
心理学的には、思春期の子どもは「理想の自分」と「現実の自分」のギャップに悩むことが多くなります。ソーシャルメディアなどを通じて、他者の「理想化された姿」に触れる機会も増え、自分自身と比較して劣等感を抱きやすくなる環境も影響しているかもしれません。また、過去の失敗体験や、周囲からの否定的なフィードバックが積み重なることで、「自分は能力がない」「どうせやっても無駄だ」といった学習性無力感に陥り、ネガティブなセルフトークが増えることもあります。
親ができる具体的な声かけとサポート
お子様がネガティブなセルフトークをしているのを聞いたとき、親御様としてはすぐに否定してしまったり、「そんなことないよ」「大丈夫だよ」と励ましたくなったりするかもしれません。しかし、安易な否定や根拠のない励ましは、かえって子どもが「自分の気持ちを理解してもらえない」と感じ、心を閉ざしてしまう可能性があります。
思春期の子どものネガティブなセルフトークに対して、親ができるより建設的な関わり方には、以下のようなものがあります。
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傾聴と共感の姿勢を示す お子様がネガティブな言葉を口にしたとしても、すぐに訂正したり、理由を問い詰めたりせず、まずはその言葉の裏にある感情や不安に耳を傾ける姿勢を示しましょう。「そう感じているんだね」「何か不安なことがあるのかな」といったように、お子様の感情を受け止める言葉を返すことが重要です。これにより、お子様は「自分の気持ちを話しても大丈夫だ」という安心感を得ることができます。
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行動や努力のプロセスを具体的に承認する 結果だけを見て「ダメだね」と言うのではなく、お子様が何かをしようとした「行動」や、それに向けて「努力したプロセス」に焦点を当てて具体的に承認しましょう。「〇〇しようと頑張っていたね」「△△なところがすごく成長したと思うよ」といった声かけは、お子様の自己肯定感を高める助けとなります。心理学の研究でも、結果だけでなく努力を褒めることが、困難に立ち向かう力を育むことが示されています。
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小さな成功体験を積める機会を提供する 「どうせ無理」という気持ちは、成功体験の不足からくることが多いです。お子様が「これならできそうだ」と思えるような、ハードルの低い目標設定を一緒に考えたり、小さな役割をお願いしたりすることで、成功体験を積める機会を作りましょう。成功体験は、自己効力感(「自分ならできる」という感覚)を高め、ネガティブな自己評価を修正する力になります。
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ネガティブな言葉を客観視させる促し お子様が「自分はダメだ」と言った時に、「本当にそうかな? どんな時にそう感じたの?」と、お子様の言葉を鵜呑みにせず、一緒にその言葉の根拠や状況を振り返るように促すことも有効です。これは、お子様が自分の思考パターン(例えば、失敗した時に全てを否定的に捉えてしまう認知の歪み)に気づくきっかけになります。ただし、これは詰問するのではなく、あくまで一緒に考えるという姿勢で行うことが重要です。
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親自身のモデルを示す 親御様自身が、失敗をした時にどのように受け止め、どのように次に繋げようとしているか、声に出して話してみるのも良い方法です。「あー、これ失敗しちゃったな。でも、次はこうしてみよう」「うまくいかなかったけど、この経験から学べたことはあるな」といった親の姿勢は、お子様にとって困難への向き合い方のモデルとなります。自分自身を過度に責めるのではなく、成長の機会として捉える姿勢を示すことが大切です。
応用・発展的な視点と専門家への相談
ネガティブなセルフトークが頻繁に見られたり、それによって行動が極端に制限されたり、学校生活や友人関係に支障が出ている場合は、より専門的なサポートが必要なサインかもしれません。心理士やカウンセラーといった専門家は、お子様の思考の癖(認知の歪み)を修正したり、感情のコントロール方法を学んだりするための具体的な支援を提供することができます。
また、ネガティブなセルフトークの背景に、特定の状況(例: 学校での人間関係の悩み、将来への強い不安、過去のトラウマなど)が隠れている可能性もあります。お子様との対話を通じて、もしそういった状況が推測される場合は、必要に応じて学校の先生やスクールカウンセラー、地域の相談窓口などに相談してみることも検討してください。
まとめ
思春期の子どもが自分自身にネガティブな言葉を投げかけるのは、この時期特有の心理的・脳の発達段階による自己評価の不安定さなどが影響しています。親御様は、すぐに言葉を打ち消すのではなく、まずは共感的に耳を傾け、お子様の行動や努力を具体的に承認し、小さな成功体験を積める機会を提供することが大切です。必要に応じて専門家のサポートも視野に入れながら、お子様が健やかに自己肯定感を育んでいけるよう、根気強く見守り、寄り添っていくことが求められます。