思春期の子どもと親の「常識」が違うのはなぜ?世代間のギャップを心理学・脳科学から理解し、対話を深める具体的なアプローチ
思春期の子どもとの会話で感じる「常識の違い」
思春期を迎えたお子様との会話で、「どうしてそんな考え方をするのだろう」「私たち親の時代の常識が全く通じない」と感じる場面が増えているかもしれません。例えば、スマートフォンとの向き合い方、お金の使い方、将来の目標設定など、親としては当たり前だと思っていたことが、子どもにとっては全く異なる価値観に基づいているように見えることがあります。
このような「常識のずれ」や「世代間のギャップ」は、親子のコミュニケーションを難しくする要因の一つです。しかし、これは自然なプロセスであり、お子様が健全に成長している証とも言えます。このギャップがなぜ生じるのか、そしてどのように向き合えば良いのかを、心理学や脳科学の視点から理解し、対話を深めるための具体的な方法を探ります。
なぜ「常識」が通じ合わないのか?心理学・脳科学が示す背景
思春期に親子間で「常識が違う」と感じるのは、単なる反抗やわがままだけが原因ではありません。お子様の脳や心理が大きく変化するこの時期に、育った社会環境の違いが加わることで、価値観や「当たり前」の基準に差が生まれるのです。
1. 脳の発達段階
思春期のお子様の脳は、大人と同じように機能しているわけではありません。特に、思考、計画、判断、リスク評価、感情制御などを司る前頭前野(ぜんとうぜんや)は、20歳代半ば頃まで発達が続きます。この部分が未熟であるため、目先の快楽や衝動に流されやすかったり、長期的な視点に立って物事を考えたりすることが難しくなります。
一方、感情や報酬に関わる辺縁系(へんえんけい)は、思春期に急速に発達します。これにより、新しい刺激や経験に強く惹かれたり、友人などピアグループからの影響を非常に受けやすくなったりします。
親世代がリスクを避け、長期的な視点で判断することを「常識」とするのに対し、思春期のお子様が目の前の楽しさや仲間からの評価を優先することを「常識」とするのは、脳の構造的な違いが影響していると考えられます。
2. 心理的な自立とアイデンティティの模索
思春期は、親から心理的に離れ、自分自身の独立したアイデンティティを確立していく重要な時期です。このプロセスの中で、親の価値観や「常識」を一度疑ったり、反発したりすることは自然なことです。
友人やインターネット、SNSなど、親以外の情報源から多様な価値観に触れることで、自分自身の考え方や「当たり前」を形成していきます。この時期に形成される価値観は、親世代が育った時代とは大きく異なる社会環境の影響を強く受けています。
3. 育った社会環境の違い(世代間ギャップ)
親世代がお子様と同じ年齢だった頃と現在では、社会環境が大きく変化しています。
- 情報化: インターネットやスマートフォンの普及により、情報へのアクセスが容易になり、価値観も多様化しています。親世代が限られた情報源(テレビ、新聞など)から「常識」を形成したのに対し、お子様は膨大な情報の中から取捨選択を迫られています。
- コミュニケーション: 対面や電話が主流だった親世代に対し、お子様はSNSを通じた即時的なコミュニケーションに慣れています。これにより、人間関係の構築や維持の仕方も異なります。
- グローバル化: 国境を越えた情報や文化に触れる機会が増え、多様な価値観を受け入れやすくなっています。
これらの環境の違いが、お子様の「常識」や価値観を形成し、親世代との間にギャップを生むのです。お子様の「常識」は、彼らが生きる現代社会の中で形成されたものであり、親世代の「常識」が育まれた時代とは異なる土壌で育っていることを理解することが重要です。
世代間の「常識」の違いを乗り越え、対話を深める具体的なアプローチ
世代間のギャップは避けられないものですが、それをコミュニケーションの障壁とするのではなく、相互理解を深める機会とすることができます。大切なのは、違いを否定するのではなく、違いを認め、その背景を理解しようとする姿勢です。
1. 親自身の「常識」を相対化する
まず、親自身の「常識」が、自分が育った時代や環境によって作られたものであることを認識することから始めましょう。自分の価値観が絶対的な正解ではないと理解することで、お子様の異なる価値観を受け入れる余地が生まれます。「私たちの時代はこうだった」「普通はこうするものだ」といった一方的な視点ではなく、「なぜ自分はそう考えるのだろうか」と自己の価値観を問い直すことが、お子様との対話の第一歩となります。
2. 違いを「間違い」ではなく「多様性」として捉える
お子様の考え方や行動が親の「常識」と異なるとき、それを「間違っている」と決めつけないことが非常に重要です。お子様の価値観は、彼らが現在生きている社会の中で形成された、彼らにとっては自然なものです。
「それは違う」「理解できない」といった否定的な言葉ではなく、「あなたはそう考えるのですね」と、まずはその違いを認識し、受け止める姿勢を示しましょう。異なる考え方を「間違い」ではなく、社会に存在する多様な価値観の一つとして捉えることが、お子様の自己肯定感を守り、安心して話せる関係性を築くために不可欠です。
3. 好奇心を持って「なぜ?」と尋ねる
お子様の行動や考え方の背景には、必ず理由があります。しかし、思春期のお子様は言葉足らずであったり、自分の考えをうまく説明できなかったりすることがあります。そこで、親が「なぜそう思うの?」「どういう経験からそう考えるようになったの?」と、批判ではなく純粋な好奇心を持って質問することが大切です。
お子様の言葉にじっくり耳を傾け(傾聴)、お子様の視点から物事を見ようと努めることで、お子様の世界観や価値観が理解できるようになります。すぐに結論を出したり、アドバイスをしたりするのではなく、まずは「聞くこと」に徹しましょう。
4. 「私の意見」として伝える(Iメッセージ)
親の考えや経験を伝える際は、「〜すべきだ」「〜が正しい」といった断定的な表現や、「あなたはどうして〜しないの」といった責めるような言い方(Youメッセージ)を避けましょう。代わりに、「私は〜だと思う」「私は〜という経験をしたから、〜という考え方をするようになった」というように、「私」を主語にした「Iメッセージ」で伝えることを意識してください。
これにより、お子様は親の考えを「押し付け」ではなく、一意見として聞くことができます。親の経験談や考え方を共有することは、お子様が多様な価値観に触れる機会となり、自身の考えを深めるヒントになる可能性があります。
5. 共通の理解点や目標を探す
価値観が全て一致することは期待できません。しかし、親子として、家族として、共通の目標や大切にしたいこと(例: 健康であること、お互いを尊重すること、安全であることなど)は存在するはずです。
たとえ個別の事象(例: スマホの使用時間)で意見が対立しても、その根底にある共通の目標(例: 心身の健康を保つこと)を確認し合うことで、建設的な話し合いが可能になります。価値観の違いを乗り越えるには、全てを分かり合うことではなく、最低限の共通理解とリスペクトの土台を築くことが大切です。
NGなコミュニケーション例
- 「ありえない」「普通じゃない」「私たちの頃は考えられなかった」など、お子様の価値観を否定する言葉。
- お子様の意見を聞かずに、一方的に親の考えやルールを押し付ける。
- 他の兄弟や友達と比較して、「〇〇ちゃんはこうしている」などと言う。
- 感情的になり、過去の失敗などを持ち出して責める。
世代間のギャップを乗り越えることは、親自身の成長にも繋がる
思春期のお子様との間に生じる世代間のギャップは、親にとって戸惑いや難しさを伴うものです。しかし、これを機会に親自身の価値観を問い直し、お子様のいる現代社会への理解を深めることは、親自身の視野を広げ、柔軟性を高めることにも繋がります。
お子様の異なる「常識」を理解しようと努め、対話を重ねるプロセスは、お子様が多様な価値観の中で自身の道を歩む力を育むことにも貢献します。すぐに分かり合えなくても、根気強く、そして誠実にお子様と向き合う姿勢こそが、思春期という変化の時期における親子の信頼関係を築き、深めていく鍵となるでしょう。
まとめ
思春期のお子様と親の間で「常識」が違うと感じるのは、脳の発達、心理的な変化、そして育った社会環境の複合的な影響による自然な現象です。このギャップを乗り越えるためには、親自身が自身の「常識」を相対化し、お子様の異なる価値観を「間違い」ではなく「多様性」として受け止める姿勢が不可欠です。批判ではなく好奇心を持って耳を傾け、「私の意見」として伝える対話を心がけることで、たとえ全てを分かり合えなくても、相互理解とリスペクトに基づいた信頼関係を築くことができるでしょう。世代間のギャップとの向き合いは、親子の関係性を深めると同時に、親自身の成長にも繋がる貴重な機会と言えます。