思春期の子どもへの「期待」が重荷になるとき:親が知っておくべき心理と脳科学、具体的な対応策
親として、子どもに期待を抱くことは自然な感情です。健やかに育ってほしい、自分の可能性を最大限に発揮してほしい、という願いは、子どもへの愛情の表れと言えるでしょう。しかし、子どもが思春期を迎えるにつれて、親の抱く「期待」が、時に子どもにとって、そして親子の関係にとって重荷となってしまうことがあります。
思春期の子どもへの「期待」が重荷になる背景
なぜ、それまで問題なく受け入れられていたかもしれない親の期待が、思春期になると課題となりやすいのでしょうか。そこには、思春期特有の心理や脳の発達が深く関わっています。
思春期は、子どもが自己を確立し、親から精神的に独立していく重要な時期です。この過程で、子どもは自身の価値観や能力について悩み、揺れ動くことが増えます。自己肯定感も不安定になりやすく、他者からの評価に敏感になります。特に親からの評価は、良くも悪くも大きな影響力を持っています。
この時期の子どもの脳は、感情を司る扁桃体が活発になる一方で、思考や判断、感情のコントロールを担う前頭前野が発達途上にあります。そのため、感情的に反応しやすく、論理的に物事を判断したり、長期的な視点で自身の行動をコントロールしたりすることが難しくなる場合があります。
このような思春期の子どもにとって、親からの過度な期待は、自身の現状とのギャップを突きつけられているように感じられたり、親の価値観を押し付けられているように感じられたりすることがあります。心理学では、「期待」が相手へのプレッシャーとなり、パフォーマンスを低下させる現象も指摘されています(例:ステレオタイプ脅威)。
一方で、親側にも思春期の子どもへの期待が強まる要因があります。子どもの成長と共に、将来への漠然とした不安や、自身の果たせなかった夢を子どもに託してしまう心理などが考えられます。また、社会的な成功や規範を強く意識するあまり、子どもにも同様の道を望んでしまうケースもあるでしょう。
親の「期待」が、子ども自身の「やりたいこと」や「なりたい自分」と食い違ったり、子ども自身の能力やペースを超えたものであったりする場合、子どもは期待に応えようと無理をするか、反発するか、あるいは無気力になってしまう可能性があります。いずれにしても、親子の間に壁ができ、コミュニケーションが難しくなる原因となり得ます。
親ができる具体的な対応策
では、思春期の子どもへの期待とどのように向き合えば良いのでしょうか。ポイントは、親自身が自身の期待を認識し、それを子どもへの「応援」という形に変えて伝えていくことです。
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自身の「期待」を客観的に見つめ直す:
- まず、自分が子どもにどのような期待を抱いているのか、具体的に書き出してみましょう。学業、進路、スポーツ、性格、将来の職業など、様々な側面があるかもしれません。
- 次に、なぜその期待を抱くのか、その根源を探ります。それは本当に子どものためなのか、それとも親自身の不安や願望が投影されているのかを冷静に分析します。
- この自己分析は、期待を手放したり、表現方法を変えたりするための第一歩となります。
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期待を「押し付け」ではなく「応援」として伝える:
- 期待を伝える際は、結果や目標達成そのものよりも、子どもが取り組む過程や努力、子どもの個性や強みに焦点を当てて声かけをします。
- 具体的な声かけ例:
- NG例:「絶対に〇〇大学に合格しなさい。」「なんで〇〇ができないの?」
- OK例:「〇〇の勉強、毎日続けていてすごいね。努力している過程を見ていると、応援したくなるよ。」「どんなことに興味があるのか、話を聞かせてくれる?色々な道があると思うよ。」
- 子どもの選択や意見を尊重する姿勢を示すことが重要です。親の理想を一方的に押し付けるのではなく、子ども自身が考え、決定するプロセスをサポートします。
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子どもの自己決定権とペースを尊重する:
- 思春期の子どもにとって、自分で物事を決め、自分の力で進んでいく経験は、自己肯定感を育む上で非常に重要です。親は、過干渉にならないよう距離感を保ちつつ、子どもが見通しを立てたり、必要な情報を集めたりするのをサポートする立場に回ります。
- 例えば、進路について話す際も、「〇〇になりなさい」ではなく、「〇〇という仕事にはこんな側面があるみたいだよ」「△△大学は〇〇の分野に強いらしいけど、どう思う?」のように、情報提供や選択肢の提示に留め、最終的な判断は子どもに委ねます。
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親自身の幸福度も大切にする:
- 親が自身の人生に満足し、楽しんでいる姿を見せることは、子どもにとって良いモデルとなります。親が自身の幸せを子どもに依存しすぎると、期待が過剰になったり、子どもの選択に一喜一憂しやすくなったりします。親自身が趣味や仕事、人間関係など、子育て以外の側面も大切にすることで、子どもへの期待との健全な距離感を保ちやすくなります。
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対話を通じて子どもの本音を引き出す:
- 子どもが親の期待に対してどのように感じているのか、直接尋ねてみることも有効です。ただし、批判的な口調ではなく、「お母さん/お父さんの〇〇という言葉、どう感じた?」のように、子どもの感情や考えを理解しようとする姿勢で聞くことが大切です。心理的な安全が確保された状態であれば、子どもも本音を話しやすくなります。
まとめ
思春期の子どもへの「期待」は、見方を変えれば、親の「応援」という強い味方になる可能性を秘めています。大切なのは、親自身が自身の期待を認識し、それが子どもにとってどのような意味を持つのかを理解することです。そして、期待を成果の要求として伝えるのではなく、子どもの努力や個性を認め、子どもの自己決定を尊重する「応援」の形に変えていくことです。
思春期は親子の関係性が変化する時期であり、親も子育てのスタイルをアップデートしていく必要があります。子どもへの信頼を土台とし、対話を通じて互いの気持ちを理解しようと努めることが、この時期の親子関係を良好に保ち、子どもの健やかな自立をサポートすることにつながるでしょう。