思春期の子どもにアドバイスが響かないのはなぜ?脳の発達と心理を知り、子どもの主体性を尊重する親の具体的な声かけ
思春期の子どもにアドバイスが響かないと感じたら
思春期を迎えたお子さんとのコミュニケーションにおいて、「前は素直に聞いてくれたのに、最近はどうもアドバイスが響かない」「何か伝えても暖簾に腕押しだ」と感じることは少なくないかもしれません。親としては子どものためを思って伝えているつもりなのに、なぜ子どもは耳を傾けてくれないのでしょうか。
この時期の子どもの変化は、決して親への反抗心だけから来ているわけではありません。そこには、脳の発達や心理的な自立といった、この年代特有の背景があります。本記事では、思春期の子どもにアドバイスが響きにくくなる理由を専門的な視点から解説し、子どもの主体性を尊重しながら、親としてどのように関われば良いのか、具体的な声かけやアプローチをご紹介します。
アドバイスが響かない背景:脳と心理の変化
思春期は、子どもから大人へと変化していく過渡期です。この時期、子どもの脳と心には大きな変化が起こります。
脳の発達
特に、前頭前野(ぜんとうぜんや)と呼ばれる脳の部位は、思春期にかけて大きく発達します。前頭前野は、論理的思考、判断、計画、衝動の抑制といった高度な認知機能を司っています。しかし、この前頭前野は脳の中でも最も完成が遅く、思春期の間も発達途上にあります。
感情を司る扁桃体(へんとうたい)などの脳の部位は思春期早期に活発になる一方で、前頭前野による感情の抑制や合理的な判断能力はまだ十分に機能していません。このアンバランスさが、感情的な反応が優位になったり、衝動的な行動をとったりしやすい一因となります。
アドバイスを聞き、その妥当性を判断し、自分の行動に反映させるというプロセスは、前頭前野の機能に大きく依存します。発達途上の脳を持つ思春期の子どもにとって、親からの論理的なアドバイスや長期的な視点に基づいた指示が、大人のようにスムーズに処理・受容されない場合があるのです。
心理的な変化:自立と自己確立
思春期は、エリクソンの発達段階論でいう「アイデンティティ対役割拡散」の時期にあたります。自分は何者であるか、将来どうなりたいのかといった、自己の確立を目指す大切な時期です。
この過程で、子どもは親からの心理的な離乳を進め、自らの価値観や考え方を形成しようとします。親からのアドバイスを、自分の考えを否定されたり、コントロールされたりすると感じ、「自分で決めたい」「自分で考えたい」という気持ちが強くなります。これは健康的な自立のプロセスであり、必ずしも親を否定しているわけではありません。
友人関係も非常に重要になります。ピアグループ(仲間集団)の中で自分を位置づけ、承認を得ることは、自己肯定感を育む上で大きな意味を持ちます。時には、親のアドバイスよりも友達の意見や世間のトレンドを優先することもありますが、これもまたこの時期特有の心理的な傾向です。
親の「良かれと思った」アドバイスが逆効果になることも
親は過去の経験や知識から、子どもにとって最善だと思われる道を提示しようとします。しかし、その伝え方によっては、子どもの心に響かないばかりか、かえって反発を招くことがあります。
例えば、 * 一方的に正論を押し付ける * 子どもの気持ちや状況を十分に聞かずにアドバイスする * 否定的な言葉や過去の失敗を持ち出す * アドバイスを「〜すべき」「〜してはいけない」といった強い指示の形にする
このような関わり方は、子どもに「自分の考えは尊重されていない」「どうせ理解してもらえない」と感じさせ、心を閉ざしてしまう可能性があります。
子どもの主体性を育む具体的な関わり方
では、思春期の子どもにアドバイスをする際に、親はどのように関われば良いのでしょうか。重要なのは、アドバイスを受け入れさせることではなく、子どもの主体性を尊重し、自分で考える力を育むサポートをすることです。
1. まずは「聞く」姿勢を大切にする
アドバイスをしたくなる前に、まずは子どもの話を「聞く」ことから始めましょう。子どもが何か話してきたとき、たとえそれが些細なことでも、批判や評価を挟まずに耳を傾けます。
- 傾聴(アクティブリスニング): 子どもの言葉に相槌を打ったり、「うんうん」「なるほど」と共感を示したりしながら聞きます。子どもの感情や考えを理解しようと努める姿勢が伝わると、子どもは安心して話せるようになります。
- 質問で思考を促す: すぐに答えやアドバイスを与えるのではなく、「それについてどう思ったの?」「それでどうしたいの?」といった問いかけをすることで、子ども自身に考えさせる機会を作ります。
2. アドバイスは「選択肢」や「情報」として提示する
アドバイスを指示ではなく、あくまで一つの選択肢や情報として提供することを心がけます。
- 「〜してみたらどうかな?」と提案する: 「〜しなさい」ではなく、「〜という方法もあるかもしれないね」「もしよかったら、〜してみるのはどうかな?」のように、提案する形で伝えます。
- 親自身の経験談として話す: 「お母さん(お父さん)が若い頃、こういうことがあって、その時はこうしてみたんだよ」のように、自分の経験を語ることで、押し付けがましくなく、一つの参考情報として提供できます。
- 複数の選択肢を示す: 一つの正解を提示するのではなく、「Aという考え方もあるし、Bという考え方もあるね。それぞれにメリット・デメリットがあるかもしれない」のように、多様な可能性を示し、子ども自身が比較検討できるように促します。
3. タイミングと状況を見極める
子どもが疲れていたり、感情的になっていたりする時には、どんなに良いアドバイスも効果がないことが多いです。子どもが落ち着いている時や、親子の関係が穏やかな時に話すようにします。また、子どもが自分から相談してきた時が、最もアドバイスを受け入れやすいタイミングです。
4. 自分で決めたことを応援し、失敗を恐れない環境を作る
子どもが自分で考えて決めたことに対しては、結果に関わらず応援する姿勢を示します。たとえ失敗したとしても、「どうしてうまくいかなかったんだろうね?」「次はどうしたらいいかな?」と一緒に考え、次に繋げるサポートをします。失敗を恐れずに挑戦できる環境があることは、子どもの自立と自己肯定感を育む上で非常に重要です。
5. 親も完璧ではないことを伝える
親が常に正しい答えを知っているわけではない、完璧ではないという姿を見せることも、子どもとの心理的な距離を縮めることがあります。「お母さん(お父さん)も、若い頃は悩んだり失敗したりしたことがたくさんあったよ」と話すことで、子どもは親を身近に感じ、アドバイスをより素直に聞き入れやすくなる場合があります。
アドバイスを聞かない状況が続く場合
子どものアドバイスに対する反応が、単なる思春期の一過性のものに見えない場合、例えば極端な無気力や反抗、コミュニケーションの拒否が続くようであれば、その背景に別の悩みや課題が隠れている可能性も考えられます。学校での問題、友人関係のトラブル、自己肯定感の著しい低下などが影響していることもあります。
そのような場合には、子どもとじっくり向き合う時間を持つことに加え、学校の先生やスクールカウンセラー、地域の相談窓口などの専門機関に相談することも有効な選択肢です。第三者の視点や専門的なアドバイスが、状況を打開するきっかけになることもあります。
まとめ
思春期の子どもにアドバイスが響かないと感じるのは、この時期特有の脳と心理の変化が背景にあります。それは決して親を拒否しているわけではなく、自立し、自分自身の頭で考えようとする成長の証でもあります。
親に求められるのは、一方的に正解を与えることではなく、子どもの話を丁寧に聞き、共感を示し、子どもの主体性を尊重しながら、共に考える姿勢を持つことです。アドバイスは「指示」ではなく「情報提供」や「提案」として伝え、子ども自身が選択し、経験から学んでいく過程を見守る関わり方が、結果として子どもの自立を促し、長期的な信頼関係を築くことに繋がるでしょう。