親子の心をつなぐヒント

思春期の子どもの将来への漠然とした不安や「やりたいことがない」という状態:心理学・脳科学から探る背景と親ができる具体的なサポート

Tags: 思春期, 将来への不安, モチベーション, 脳科学, 心理学, 子育て, コミュニケーション, サポート

思春期は、子どもから大人へと心身が大きく変化する重要な時期です。この時期、多くの親御さんが「うちの子、将来のこと何も考えていないみたい」「何を聞いても『別に』としか言わない」「やる気がなさそうで心配」といった悩みを抱えることがあります。子どもの様子を見ていると、将来について漠然とした不安を抱えているように見えたり、熱中できるものがなく無気力に見えたりすることもあるかもしれません。

こうした状態は、必ずしも問題行動というわけではなく、思春期の子どもが自分自身と社会との関わりについて深く考え始める過程で、多くの人が経験しうるものです。しかし、親としてどのように関われば良いのか分からず、不安に感じることもあるでしょう。ここでは、思春期の子どもが将来への不安を感じたり、モチベーションが低下したりする背景を、心理学や脳科学の視点から解説し、親ができる具体的なサポート方法について考えます。

思春期の子どもが将来に不安を感じたり、やる気が出なかったりする背景

思春期の子どもが将来に対して漠然とした不安を抱えたり、何事にも意欲的になれなかったりする背景には、この時期特有の心身の変化が深く関わっています。

1. 脳の発達段階

思春期の子どもの脳は、大人とは異なりまだ発達の途上にあります。特に、思考、判断、計画、意思決定などを司る前頭前野(ぜんとうぜんや)は、20歳を過ぎても発達が続くとされています。この前頭前野の機能が未熟であるため、子どもは将来の見通しを立てたり、長期的な目標を設定してそこに向かうための計画を立てたりすることが得意ではありません。

また、感情や衝動に関わる扁桃体(へんとうたい)などの脳の部位は先行して発達するため、感情の起伏が激しくなったり、衝動的な行動をとったりしやすくなります。一方で、行動を計画し、それを実行して目標を達成したときに喜びを感じる「報酬系」と呼ばれる脳のシステムも発達しますが、このシステムが将来のような遠い目標に対してはまだ十分に機能しにくい傾向があります。そのため、目先の興味には惹かれても、将来のために地道な努力を続けるモチベーションが湧きにくいという側面があります。

2. アイデンティティの探求と心理的な変化

思春期は、自分が何者であるか、社会の中でどのような役割を果たしたいかといった「自己アイデンティティ」を本格的に探し始める時期です。この探求の過程で、子どもは様々な可能性を考えますが、同時に自分が何に向いているのか、将来何をしたいのかが分からず混乱したり、不安を感じたりします。

社会からの期待や、友人との比較、入試や就職といった将来へのプレッシャーも、この不安を増大させる要因となります。特に、情報過多の現代社会では、多様な生き方や価値観に触れる機会が増えた反面、選択肢が多すぎて「どれを選べばいいのか分からない」「どれを選んでも後悔するのではないか」といった選択肢の麻痺(オーバーチョイス)に陥りやすく、これが無気力や不安につながることもあります。

3. 自己肯定感の揺らぎ

思春期は、身体的な変化や友人関係の変化などにより、自己肯定感が揺らぎやすい時期でもあります。自分に自信が持てない、どうせ自分には無理だと感じている場合、将来についてポジティブなイメージを持つことが難しくなり、挑戦することへの意欲が低下することがあります。過去の失敗経験や、親や周囲からの否定的な言葉も、自己肯定感を低下させる要因となり得ます。

親ができる具体的なサポートと関わり方

思春期の子どもが将来への不安を抱えたり、モチベーションが低下しているように見えるとき、親ができることがあります。大切なのは、子どもを一方的に問い詰めたり、親の価値観を押し付けたりするのではなく、子どもの内面に寄り添い、成長をサポートする姿勢を持つことです。

1. 判断せず、共感的に「聞く」姿勢を持つ

子どもがぽつりと不安や悩みを口にしたとき、親はすぐに解決策を提示したり、励まそうとしたりしがちです。しかし、子どもが求めているのは、まず自分の気持ちを受け止めてもらうことです。

子どもの言葉を遮らず、批判せず、まずは傾聴(アクティブリスニング)に徹してください。子どもが話したくない様子であれば、「いつでも聞く準備はできているよ」と伝え、見守る姿勢を示します。親がいつでも安全な居場所であると感じられることが、子どもが内面をオープンにするための第一歩です。

2. 探求を促す「環境」と「機会」を提供する

将来について考えるためには、様々な世界を知り、多様な価値観に触れることが必要です。親は直接的な答えを与えるのではなく、子ども自身が探求できるような環境や機会を提案することができます。

ただし、これらの提案はあくまで「情報提供」や「機会の提示」として行い、強制はしないことが重要です。子どもが「やらされている」と感じると、かえって反発につながることがあります。

3. 小さな「成功体験」を積めるようサポートする

将来への不安やモチベーションの低下は、自分には何もできない、何も良いところがないと感じていることに起因する場合もあります。自己肯定感を育み、自信を取り戻すためには、小さな成功体験を積み重ねることが有効です。

4. 完璧主義を手放すメッセージを伝える

「良い大学に入らなければ」「大企業に就職しなければ」といった完璧主義的な考えや、一つだけの正解を求めすぎる姿勢は、子どもをがんじがらめにしてしまうことがあります。

親自身も、子どものキャリアや人生に対する理想像を一度手放し、子どもが多様な可能性を受け入れられるような柔軟な考え方を示すことが重要です。

5. 親自身のキャリア観や働き方を語る

親が自分の仕事やキャリアについてポジティブに語る姿を見せることは、子どもにとって将来を考える上でのヒントになります。親がどのようにして現在の仕事に就いたのか、仕事のどんなところにやりがいを感じるのか、困難にどう向き合ってきたのかといった具体的な話は、子どもが将来を自分事として捉えるきっかけになります。

6. NGな声かけ・行動

子どもを追い詰めてしまうような、避けるべき声かけや行動があります。

これらの声かけは、子どもをさらに追い込み、親に本音を話すことをためらわせる原因となります。

専門機関への相談も視野に

将来への不安や無気力があまりに強く、日常生活(睡眠、食事、学校生活、友人関係など)に支障が出ている場合は、専門機関への相談も検討すべきです。学校のスクールカウンセラー、教育センター、児童精神科医、心理士などに相談することで、子どもに必要なサポートや、親が取るべき具体的な対応について、より専門的なアドバイスを得ることができます。

まとめ

思春期の子どもが将来に漠然とした不安を感じたり、「やりたいことがない」という状態にあることは、脳の発達や心理的な変化に伴う、多くの人が経験しうる自然な過程です。この時期に親ができることは、子どもを問い詰めたり、焦らせたりするのではなく、子どもの内面的な葛藤に寄り添い、安全な場所で見守りながら、探求のための情報や機会を穏やかに提供することです。

子どもが自分自身と向き合い、将来について考える時間を大切にし、小さな成功体験を積めるようサポートしてください。そして何よりも、親自身が子どもの成長を信じ、根気強く寄り添う姿勢が、子どもの未来を切り拓く力となります。専門家のサポートが必要な場合は、ためらわずに相談を検討してください。