思春期の子どもが「挑戦」を避けるのはなぜ?心理学と脳科学から探る、失敗を恐れず一歩踏み出す力を育む親の関わり方
思春期を迎えたお子様が、新しい習い事や学校の発表、委員会活動など、これまでの自分から一歩踏み出すような挑戦を避けるように見えるとき、親御様としては心配になることがあるかもしれません。積極性がない、自信がないと感じることもあるでしょう。このような思春期の子どもの行動には、この時期特有の脳の発達と心理的な変化が大きく関わっています。
思春期の子どもが挑戦を避ける背景
思春期は、子どもが自己を確立し、将来に向けて様々な可能性を模索する大切な時期です。その一方で、心身の急激な変化や、自分を取り巻く環境(学校、友人関係など)の変化に適応しようとする中で、大きなストレスや不安を感じやすい時期でもあります。新しい挑戦には失敗のリスクが伴うため、不安や恐怖心が先立ち、行動を躊躇してしまうことがあります。
脳科学的な視点
思春期の脳は、まだ発達段階にあります。特に、理性的な判断や長期的な計画、リスク評価に関わる前頭前野の働きが未熟です。一方で、感情や報酬(快感)に関わる辺縁系の働きが相対的に活発になります。これにより、即時の満足感や楽しさを求める傾向が強まる一方で、将来の利益のために目の前の困難な挑戦に取り組むという動機が生まれにくいことがあります。
また、失敗から学ぶ経験は前頭前野の発達を促しますが、思春期においては失敗そのものへの恐れが強く働く場合があります。これは、自己肯定感が揺らぎやすく、他者からの評価を過度に気にするようになる心理状態と連動しています。
心理学的な視点
思春期には、自己意識が非常に高まります。「自分が他者からどう見られているか」を強く意識するため、失敗して恥ずかしい思いをすることや、劣っていると評価されることを極度に恐れるようになります。
また、自分自身の能力や価値に対する自己肯定感が不安定になりやすい時期でもあります。成功体験は自己肯定感を高める一方で、失敗体験は自己肯定感を大きく傷つける可能性があると感じるため、リスクを冒してまで挑戦することを避ける傾向が見られます。これは、心理学でいうコンフォートゾーン(居心地の良い安全な領域)に留まろうとする自然な心理作用とも言えます。コンフォートゾーンから一歩踏み出すことは、程度の差こそあれ、誰にとっても心理的な負担を伴う行為です。
失敗を恐れず一歩踏み出す力を育む親の具体的な関わり方
思春期の子どもが挑戦を避ける背景を理解した上で、親ができるサポートは、単に「頑張れ」と励ますだけでなく、彼らが内面に抱える不安や恐れに寄り添い、乗り越えるための具体的な方法を共に探ることです。
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安全な挑戦の機会を提供する いきなり大きな挑戦を促すのではなく、まずは失敗しても大きな影響がないような、比較的リスクの低い挑戦の機会を意図的に作ってみましょう。
- 例:家族内での役割(夕食のメニューを一つ決めて作る)、趣味の小さな発表の場(家族に絵を見せる、演奏を聞かせる)、短期の体験講座など。 このような小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にもできる」という感覚(自己効力感)を高めることができます。
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結果だけでなくプロセスや努力を承認する 挑戦の結果(成功/失敗)だけに注目するのではなく、挑戦しようと決めたこと、準備した過程、努力したこと自体を具体的に褒め、承認することが重要です。
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- NG例: 「結局ダメだったね。やっぱり向いてなかったんじゃない?」
- OK例: 「〇〇に挑戦しようと自分で決めたこと、すごいね。△△のために毎日練習していた姿、お母さん/お父さんは見ていたよ。その努力は必ず次につながるから大丈夫。」 これは、心理学でいう成長マインドセット(能力は努力次第で伸びるという考え方)を育む上で非常に重要です。失敗は能力が足りないからではなく、成長するためのステップであるという捉え方を促します。
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失敗は学びの機会であることを伝える 失敗は悪いことではなく、むしろ成長のために不可欠な学びの機会であることを、親自身の経験などを交えながら伝えてみましょう。
- 例:「お父さん/お母さんも若い頃、プレゼンで大失敗したことがあるよ。でも、その失敗から〇〇を学んで、次は△△のように工夫できたんだ。失敗は辛いけど、そこから必ず学べることがあるんだよ。」 頭ごなしに「失敗を恐れるな」と言うのではなく、具体的に「失敗から何を学べるのか」を共に考える姿勢を示すことが大切です。
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完璧を求めない姿勢を示す 親自身が子どもに対して完璧主義的な期待を持っていないことを示し、失敗しても受け止めるという安心感を与えることが重要です。子どもは親の期待を敏感に感じ取ります。
- 言葉だけでなく、親自身の日常生活で小さな失敗を素直に認めたり、完璧でなくても楽しむ姿勢を見せたりすることも有効です。
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親自身の挑戦する姿勢を見せる 親が新しいことに挑戦したり、失敗から立ち直ったりする姿を見せることは、子どもにとって最も身近で説得力のある手本となります。
- 例:新しい趣味を始めてみる、苦手なことに取り組んでみるなど。 親が生き生きと挑戦する姿は、「挑戦は楽しいこと」「失敗しても大丈夫」というメッセージを無言のうちに伝えます。
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スモールステップで始めることを促す 挑戦を避けがちな子どもには、最終目標を小さく分割し、まずは実行可能な最初の一歩から踏み出すように促しましょう。
- 例:大きな発表会に出るのが目標なら、まずは家族の前で披露する、友人に見てもらうなど。 最初の一歩を踏み出すハードルを下げることで、挑戦への抵抗感を和らげます。
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声かけの具体例
- 「〇〇(挑戦したいこと)について、どう思う?興味はある?」と、まずは子どもの気持ちを確認する。
- 「やってみたいな、でも失敗したら怖いな、って思っているのかもしれないね。」と、不安な気持ちに寄り添う。
- 「もし失敗したとしても、〇〇の△△なところが成長すると思うよ。」と、挑戦の意義や得られるものを具体的に伝える。
- 「最初からうまくいく人なんていないよ。少しずつやってみようか。」と、スモールステップを提案する。
専門家への相談も視野に
極端に失敗を恐れ、日常生活や学業に支障が出ている場合(例:過度な不安から新しい環境に適応できない、完璧主義が度を超して何も始められないなど)は、専門家(学校のカウンセラー、児童精神科医、臨床心理士など)に相談することも検討しましょう。根底に別の心理的な課題が隠れている可能性もあります。
まとめ
思春期の子どもが挑戦を避けるのは、この時期特有の脳と心の変化による自然な側面があります。失敗を恐れず一歩踏み出す力を育むためには、親がその背景を理解し、結果ではなくプロセスを承認し、失敗を学びとして捉える姿勢を伝え、安全な環境でスモールステップでの挑戦を促すことが重要です。子どもへの無条件の愛と信頼を基盤とした関わりは、彼らが自身の可能性を信じ、未来へ向かって歩み出すための大きな力となるでしょう。