思春期の子どもが「自分なんてダメだ」と言った時：心理学と脳科学から考える親ができる具体的な声かけとサポート
思春期の子どもが、ふとした瞬間に「どうせ自分なんてダメだ」「何をやってもうまくいかない」といった自己否定的な言葉を口にすることがあります。親としては、励ましたり、否定したり、あるいはどう反応して良いか分からず困惑したりすることもあるでしょう。このような言葉は、思春期の子どもの心の中で起きている複雑な変化の一端を示している場合があります。
思春期の子どもの自己否定的な言葉の背景
思春期は、子どもが自分自身のアイデンティティを確立しようとする大切な時期です。その過程で、他者からの評価を気にしたり、理想とする自分と現実の自分とのギャップに悩んだりすることが増えます。また、脳の発達、特に感情や衝動をコントロールする前頭前野がまだ発達途上であるため、感情の波が大きく、ネガティブな感情に囚われやすくなる傾向があります。
「自分なんてダメだ」という言葉は、単に自信がないというだけでなく、以下のような様々な心理や状況が隠されている可能性があります。
- 完璧主義や高い理想とのギャップ: 自分に高い基準を課しており、それが達成できないと感じた時の失望感。
- 失敗への恐れ: 新しいことに挑戦したり、失敗したりすることへの強い不安。
- 他者との比較: 友人やきょうだい、SNSなどで目にする他者と比較し、自分は劣っていると感じる。
- 自己肯定感の低下: これまでの経験から、自分の価値を低く見積もってしまう。
- プレッシャーやストレス: 受験、部活動、友人関係など、様々なプレッシャーから逃れたい気持ち。
- SOSのサイン: 抱えている悩みや困難を言葉で表現できない代わりに、自己否定的な言葉で辛さをアピールしている。
特に思春期においては、脳の報酬系が敏感になる一方で、リスク評価や長期的な視点を持つ前頭前野の機能が未熟なため、短期的な失敗や他者からの評価に過敏に反応し、ネガティブな感情に囚われやすくなることが、こうした自己否定的な発言に繋がる一因と考えられます。
親ができる具体的な声かけとサポート
子どもが自己否定的な言葉を口にした時、親がどのように反応するかは、その後の子どもの自己肯定感や問題解決能力に大きな影響を与えます。以下に、心理学や脳科学の知見に基づいた具体的なアプローチをご紹介します。
1. 反射的な否定や励ましをせず、まずは「傾聴」と「共感」
子どもが「どうせダメだ」と言った時、親としては「そんなことないよ」「大丈夫だよ、頑張れるよ」とすぐに否定したり励ましたりしたくなるかもしれません。しかし、子どもは自分の辛い気持ちを受け止めてほしいと思っている場合が多いです。反射的な否定は、「自分の気持ちを分かってもらえない」と感じさせ、心を閉ざしてしまう可能性があります。
- 具体的な声かけ例:
- 「そっか、そう感じているんだね。」
- 「そう言いたくなるくらい、辛いことがあったの？」
- 「何かあったのかな？ もし良かったら聞かせてくれないかな。」
まずは、判断や評価をせずに、子どもの言葉をそのまま受け止める姿勢を示してください。相槌を打ちながら、穏やかな表情で耳を傾けることが重要です。
2. 感情の背景を理解しようとする姿勢を示す
自己否定の言葉の裏には、様々な感情が隠されています。「悔しい」「悲しい」「疲れた」「怖い」など、具体的な感情に寄り添うことで、子どもは「自分の気持ちを理解しようとしてくれている」と感じやすくなります。
- 具体的な声かけ例:
- 「〇〇がうまくいかなくて、悔しかったんだね。」
- 「頑張ったのに、そう思ってしまうくらい疲れているのかもしれないね。」
- 「△△のことが心配で、自信がなくなっているのかな。」
子どもの言葉や表情から、その背景にある感情を推測し、穏やかに言葉にして伝えてみましょう。もし推測が間違っていても、「いや、そうじゃなくてね」と子どもが訂正する中で、自分の気持ちを整理する手助けになることがあります。
3. 具体的な行動や努力に焦点を当ててフィードバックする
抽象的な「あなたは素晴らしい」「才能がある」といった褒め言葉は、かえって子どものプレッシャーになることがあります。また、結果が出ていない状況では、こうした言葉は空虚に響くこともあります。代わりに、子どもが取り組んだ具体的なプロセスや努力、工夫した点に焦点を当てて認めることが重要です。
- 具体的な声かけ例:
- 「〇〇の課題、△△の部分、すごく丁寧に調べていたよね。ああいう粘り強さ、すごいと思うよ。」
- 「難しそうな問題だったけど、すぐに諦めないで色々試していたね。その試す過程が次につながると思うよ。」
- 「結果は残念だったかもしれないけれど、〇〇に向けて毎日練習していた姿、お父さん（お母さん）は見ていたよ。その努力は決して無駄にならないと思うな。」
脳科学的には、具体的な行動に対する報酬（承認）は、抽象的な自己評価に対する報酬よりも、自己肯定感を高める上で効果的であることが示唆されています。結果だけでなく、そこに至るまでの努力や成長のプロセスを承認することで、失敗を恐れずに挑戦する「成長マインドセット」を育むことにも繋がります。
4. 問題解決に向けて、子ども自身の考えを引き出す
感情を受け止め、努力を承認した上で、子どもがもし具体的な問題で悩んでいるようであれば、一緒に解決策を考える姿勢を示しましょう。ただし、親が一方的に解決策を提示するのではなく、あくまで子ども自身が考え、選択することをサポートする形が良いでしょう。
- 具体的な声かけ例:
- 「もし、次に同じようなことがあったら、どうしたら少しでも気持ちが楽になると思う？」
- 「今、〇〇で悩んでいるんだね。もし何か一緒に考えられることがあるなら、遠慮なく言ってね。」
- 「すぐに答えが出なくても大丈夫だよ。でも、もし少しでも状況を変えたいと思うなら、何か試せそうなことはあるかな？」
子ども自身が考え、小さな一歩でも踏み出す経験は、自己効力感（「自分にはできるかもしれない」という感覚）を高め、次の挑戦への意欲に繋がります。
5. 親自身の自己否定的な思考パターンにも気づく
子どもは親の言動をよく見ています。親が日常的に自分自身や他者に対して自己否定的な言葉を使っていたり、完璧主義的な態度を示していたりしないか、振り返ってみることも大切です。親が自分の弱さも受け入れ、前向きに課題に取り組む姿勢を見せることは、子どもにとって良いモデルとなります。
NGな声かけの例とその理由
- 「そんなことないよ！あなたはすごいんだから！」: 子どもの自己認識を否定し、気持ちに寄り添っていない。
- 「いつまでそんなこと言ってるの。もっとシャキッとしなさい。」: 子どもの感情を軽視し、叱責と受け取られる。
- 「他の子はもっと頑張ってるよ。」: 比較することで、さらに自己肯定感を低下させる可能性がある。
- 「何がダメなの？具体的に言いなさい。」: 感情的になっている子どもに論理的な説明を求めるのは難しい場合が多い。
これらの言葉は、親としては子どもを励ましたり、奮起させたりしたいという気持ちから出るものかもしれませんが、思春期の子どもにはプレッシャーや反発心を与える可能性があります。
まとめ
思春期の子どもが発する自己否定的な言葉は、成長の過程で誰もが経験しうる心の葛藤の表れである場合が多いです。その言葉の裏にある感情や理由を理解しようと努め、まずは傾聴と共感の姿勢で受け止めること。そして、結果だけでなく、そこに至るまでの子どもの努力や成長プロセスに具体的に焦点を当てて承認することが、子どもの自己肯定感を育み、困難に立ち向かう力を支える上で重要です。もし、自己否定的な発言があまりに頻繁であったり、それに伴って食欲不振や睡眠障害、引きこもりなどのサインが見られたりする場合は、専門機関に相談することも検討してください。親が一人で抱え込まず、サポートを求めることも、子どもを守る大切な一歩です。