親子の心をつなぐヒント

思春期の子どもが目標を持てない・計画を立てられない理由:脳の発達と心理を知り、親ができる具体的なサポート

Tags: 目標設定, 計画性, 自己管理, 思春期, 親子の関わり

思春期のお子さんが「将来何をしたいか分からない」「やると決めても計画通りに進められない」といった様子を見せ、どのようにサポートすれば良いか悩んでいる親御さんもいらっしゃるかもしれません。

思春期の子どもが目標設定や計画を苦手とする背景

思春期は、心身ともに大きな変化を迎える時期ですが、脳の発達もまだ途上にあります。特に、将来を見通して目標を立て、そこに至るまでの計画を考え、実行していくといった機能に関わる脳の部位は、この時期に大きく発達している段階です。

脳の発達段階

前頭葉の中でも、特に「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と呼ばれる部分は、思考、判断、計画立案、感情の制御、衝動の抑制といった高度な認知機能に関わっています。思春期にはこの前頭前野が発達し、成熟していくプロセスにあります。しかし、この機能が十分に発達していない段階では、長期的な視点を持って目標を設定したり、複雑な計画を立ててそれを実行し続けることが苦手な傾向があります。

また、思春期には「辺縁系(へんえんけい)」と呼ばれる感情や報酬、快感に関わる脳の部位が活発に働く一方、それを制御する前頭前野の発達が追いついていないため、目先の刺激や快感を優先しやすく、長期的な目標のための地道な努力が難しく感じられることもあります。

心理的な要因

この時期の子どもたちは、「自分は何者か」という自己同一性(アイデンティティ)を確立しようと模索しています。自分の興味や関心、得意なこと、将来やりたいことなどが明確になっていない場合、具体的な目標設定が難しくなります。

また、失敗を恐れる気持ちや、どうせ自分にはできないだろうという自己肯定感の低さも、目標設定や挑戦を妨げる要因となります。完璧主義的な傾向が強い場合、理想が高すぎて目標設定が難しくなったり、計画通りに進まないとすぐに諦めてしまったりすることもあります。

親ができる具体的なサポート

思春期の子どもが目標を持ち、計画を立てて実行する力を育むために、親ができる具体的な関わり方があります。

1. 興味関心を広げるサポート

目標のヒントは、子どもの「好き」や「気になる」の中にあります。 * 多様な経験の機会を提供する: 学校の勉強だけでなく、趣味、芸術、ボランティア活動など、様々な分野に触れる機会を提案したり、一緒に探したりします。 * 子どもの「好き」に耳を傾ける: 子どもが何かに興味を示したら、否定せずに話を聞き、関連する情報を提供したり、体験できる場所へ連れて行ったりします。例えば、特定のスポーツに興味を持てば、試合を一緒に観に行ったり、関連書籍を読んだりする機会を作るなどが考えられます。 * 親自身の興味や仕事について話す: 親が楽しんで取り組んでいることや、仕事を通して感じていることなどを話すことも、子どもの視野を広げるきっかけになります。

2. 小さな目標設定のサポート

最初から壮大な目標を立てる必要はありません。達成可能な小さな目標から始め、成功体験を積むことが重要です。 * 子どもと一緒に目標を考える: 「テストで〇点取る」「今週末までに部屋のこの部分だけ片付ける」「次の長期休みまでにこの本を読む」など、具体的にイメージしやすい小さな目標を子どもと一緒に考えます。 * スモールステップに分解する: 大きな目標であれば、「まず情報収集から始める」「1日1時間だけ取り組む」のように、さらに小さなステップに分解し、最初の一歩を踏み出しやすくします。 * 親の価値観を押し付けない: 親が「こうなってほしい」という願望を押し付けるのではなく、子ども自身の「こうしてみたい」という気持ちを尊重することが大切です。

3. 計画実行のスキルを育むサポート

目標達成には、計画を立て、実行し、振り返るプロセスが不可欠です。 * 計画の立て方を具体的に示す: 「いつまでに何をやるか」「そのためにはどんなステップが必要か」を一緒に考えたり、書き出したりすることをサポートします。カレンダーやタスク管理アプリなど、ツールを使うことを提案しても良いかもしれません。 * 「逆算思考」を促す: 最終的な目標から逆算して、「〇日前にここまで終わらせておく必要がある」のように考える練習を促します。 * 計画通りに進まなくても責めない: 計画はあくまで道しるべであり、変更はつきものです。計画通りに進まなかったとしても、責めるのではなく、「どうすれば次はうまくいくか」「計画自体に無理はなかったか」を一緒に振り返り、次に活かす視点を持つことが重要です。 * 頑張りを認め、成功を共有する: 小さな目標でも達成できたら、その努力やプロセスを具体的に褒め、「頑張ったね」「〇〇が良かったね」と認めます。成功体験は、次のモチベーションにつながります。

具体的な声かけの例とNG例

声かけ例: * 「最近〇〇に興味があるみたいだけど、もっと詳しく知るにはどうしたらいいかな?」 * 「次のテストに向けて、一緒にどんな計画を立てたらやりやすいか考えてみようか」 * 「この目標を達成するために、まずは何から始めてみるのが良さそうかな」 * 「計画通りにはいかなかったみたいだけど、〇〇の努力は素晴らしいと思うよ。どこで難しさを感じたか、少し話してみない?」 * 「△△ができたね!そこまで頑張れたのは、〇〇(具体的な行動)のおかげだね」

NG例: * 「いつまでそんなことしてるの!将来のこと、ちゃんと考えてるの?」 * 「〇〇君はもう目標を決めて頑張ってるのに、あなたは何やってるの」 * 「計画立ててもどうせできないでしょ」 * 「また計画通りにいかなかったの?だからダメなんだよ」 * 「できて当たり前でしょ」

応用的な視点

目標設定や計画性は、将来の進路選択だけでなく、日々の学習習慣や生活リズム、自己管理能力の向上にもつながる重要なスキルです。すぐに劇的な変化が見られなくても、焦らず根気強くサポートを続けることが大切です。

また、親自身が目標を持って生き生きと過ごしている姿を見せることも、子どもにとっては良いモデルとなります。「お母さんも最近、〇〇の勉強を始めたんだ」「お父さんは仕事でこんな目標を持って取り組んでいるよ」など、親自身の経験を話すことも、子どもの成長を促す間接的なサポートになります。

まとめ

思春期の子どもが目標を持てなかったり、計画通りに進められなかったりするのは、脳の発達段階や心理的な要因が大きく影響しています。これは「怠けている」わけではなく、この時期特有の自然な姿でもあるのです。

親は、子どもの発達段階を理解し、責めるのではなく、寄り添いながら具体的なサポートを提供していく姿勢が求められます。興味関心を広げる機会を提供し、小さな目標設定とその達成をサポートし、計画の立て方や実行、振り返りのスキルを粘り強く一緒に育んでいくことが、子どもの将来を切り開く力を育むことにつながります。時間がかかっても、子どものペースに合わせて成長を見守っていくことが大切です。