親子の心をつなぐヒント

思春期の子どもへの「応援」が重荷になるのはなぜ?脳科学・心理学から探る背景と、親ができる具体的な声かけ

Tags: 思春期, コミュニケーション, 声かけ, 心理学, プレッシャー

親の「応援」が、思春期の子どもに響かない、あるいは重荷になる背景

子どもの成長を願い、「頑張って」「応援しているよ」と声かけをすることは、親にとって自然な愛情表現の一つです。しかし、思春期を迎えた子どもに対してこれらの言葉が、時に期待通りの効果を発揮せず、かえって子どもの負担や反発につながることがあります。これは、思春期特有の心理的発達と脳機能の変化が影響しています。

この時期の子どもは、自己アイデンティティの確立という重要な課題に直面しています。エリクソンの発達段階論においても、青年期は「アイデンティティ対アイデンティティ拡散」の時期と位置づけられています。自分は何者なのか、どのような価値観を持って生きるのかを模索し、親や周囲から独立した一個の人間としての自己像を形成しようとします。

同時に、思春期の脳では、感情や衝動を司る扁桃体が活発になる一方で、思考や判断、感情のコントロールを担う前頭前野の発達がまだ追いついていません。このアンバランスさが、感情の起伏を激しくしたり、他者の言葉に過敏に反応したりする要因となります。特に、親のような近しい存在からの「期待」や「応援」は、子ども自身の未熟さや不確かさを浮き彫りにするように感じられ、プレッシャーとして強く受け止められることがあります。

親からの「応援」は、子どもにとっては「親の理想」や「成功への期待」として映ることがあります。子どもが「親の期待に応えなければ」と感じると、それは内発的な動機づけ(「自分がやりたいから頑張る」)を損ない、外発的な動機づけ(「親を喜ばせたいから頑張る」)に傾きやすくなります。しかし、思春期には親からの精神的な独立を目指すため、親のための頑張りは持続しにくく、結果が出なかった場合の挫折感がより深くなる可能性があります。

また、この時期は仲間からの承認を強く求めるようになります。親からの評価よりも、友人からの評価に価値を見出す傾向が強まるため、親からの言葉が響きにくくなることも一因です。

具体的な解決策:応援から「信頼」と「見守り」へ

思春期の子どもへの関わり方では、「応援」という形での直接的な励ましよりも、子どもを「信頼」し「見守る」姿勢を示すことが重要です。これは、子どもの主体性と自己決定権を尊重することにつながります。

  1. 結果ではなくプロセスや努力を承認する 「頑張ればできるよ」という未来への期待や、「よくやったね!」という結果への称賛も時に有効ですが、それだけではプレッシャーになり得ます。それ以上に、子どもがそれまでに行った「努力のプロセス」や「思考」、「工夫」といった目に見えにくい部分に焦点を当てて承認することが効果的です。

    • 具体的な声かけ例(OK例):
      • 「〇〇(課題)について、自分で調べているのを見て、努力しているんだなと思ったよ。」
      • 「難しかったのに、△△(具体的な行動)までやり遂げたのはすごいことだよ。」
      • 「自分で考えて、今回はこうした方法を選んだんだね。」
      • 「結果は残念だったかもしれないけど、〇〇(具体的な行動)を通して、次はこうしてみようって気づけたのは大きな収穫だね。」

    これは、子どもの内発的動機づけを育み、「自分は努力できる人間だ」「自分で考えて行動できる」という自己肯定感を高めることにつながります。

  2. 「いつでもあなたの味方である」という安心感を伝える 言葉で「応援しているよ」と言う代わりに、「困ったらいつでも相談してね」「しんどかったら立ち止まっても大丈夫だよ」「どんな選択をしても、お父さん/お母さんはあなたの味方だよ」というメッセージを伝えます。これは、条件付きの応援(「良い結果を出したら応援する」)ではなく、存在そのものを肯定し、困難な状況でも安全な場所があるという安心感を与えます。

    • 具体的な声かけ例(OK例):
      • 「もし何かあったら、いつでも聞くからね。」
      • 「失敗してもいいんだよ。失敗から学ぶことの方がたくさんある。」
      • 「完璧じゃなくて大丈夫。あなたのペースで進めばいいんだよ。」
      • 「どんな道を選んでも、応援しているよ。」(「良い結果を出せば」というニュアンスを含まない)

    このような声かけは、子どもの挑戦意欲を削ぐことなく、むしろ安心してリスクを取ることを促します。

  3. 親自身の期待を整理する 親が子どもにプレッシャーを与えてしまう背景には、親自身の過去の経験や満たされなかった願望、社会的な基準への意識などが影響していることがあります。親自身の不安や期待を自覚し、「これは子どものためなのか、それとも自分のためなのか」を問い直すことも重要です。親が自分の価値観や成功基準を子どもに押し付けず、子どもの個性や興味、ペースを尊重する姿勢を持つことが、子どもにとっては最も大きな安心感となります。

    • 具体的な行動例:
      • 子どもの話を聞くときに、評価やアドバイスをする前に、まず子どもの気持ちや考えを理解することに努める。
      • 子どもが進路などで迷っている場合、親の希望を伝えるよりも先に、子ども自身の興味や得意なこと、不安などを丁寧に聞き出す。
      • 親が自分自身の趣味や仕事に打ち込む姿を見せることで、子どもに「楽しそうに生きる大人」のモデルを示す。
  4. 非言語的な信頼を示す 言葉だけでなく、日々の態度でも子どもへの信頼を示します。約束を守る、プライベートを尊重する(許可なく部屋に入らない、スマホを見ないなど)、子どもが決めたことに対して口出しをしすぎない、といった行動は、「あなたを一人前の人間として信頼している」というメッセージを伝えます。

応用:特定の状況での声かけ

まとめ

思春期の子どもにとって、親の「応援」は時に重荷となり、プレッシャーとなることがあります。これは、自己確立を目指す心理と、感情コントロールが未熟な脳の発達による自然な過程です。親ができることは、結果や成功への期待を直接的に伝える「応援」から、子どもの主体性、努力のプロセス、そして存在そのものを「信頼」し、「見守る」姿勢へとシフトすることです。

「あなたはあなたのままで素晴らしい」「どんな状況でもあなたの味方である」というメッセージを、言葉と態度で伝え続けることが、思春期の子どもが健全な自己肯定感を育み、困難に立ち向かう力を身につけるための土台となります。親自身の期待を整理し、子どもの隣に寄り添う伴走者となる意識を持つことが、思春期の子どもとの関係をより良くしていく鍵となるでしょう。